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『プリンセス・プリンシパル』について

 タイトル通り、顔と頭のいい女が暗躍するアニメについて。視聴完了してからわりと時間が経ってしまったけど、忘れないうちに感想とかメモしておきます。
 (以下、作品紹介を書いたつもりはないけれども、一応なるべくネタバレにならないようには配慮しました。)
 
 作品全体としては、(そんなに今までアニメを多く観たわけではないが、)自分の中では五本指か十本指には入るぐらいの出来だと思った。個人的には攻殻オマージュがところどころあったのがポイント高い。
 まあそもそもスパイもの+ヴィクトリア朝スチームパンク(+百合)という時点で完全に好みの要素しかないのだけど、『プリンセス・プリンシパル』はそれ以上にストーリーテリングの秀逸さが際立っていた。
 
 たとえばこの手の物語は、視聴者に舞台設定を理解してもらったり、キャラを覚えてもらったりするために、序盤でよく「個別の事件を解決していく」みたいな物語進行をとるように思う。そして、そういう展開は得てして退屈になりがちで、観る前にファンから「n話まで耐えろ(nは自然数、だいたい3≦n≦13)」なんて言われたりする。
 けれども、この作品は話数と時系列が必ずしも一致していないおかげで、個別的な事件解決による物語進行であっても(むしろほとんどそれしかないと言ってもいいのだが)、視聴者を退屈に感じさせない、起伏ある展開を描くことができているように思った。
 具体的には、たとえば過去話に入ろうと思ったら、普通は過去回想への誘導がシナリオ上必要となるが、本作では話数と時系列の不一致によって、そもそも誘導する必要がなくなっている。これによって、それぞれのキャラクターがもつバックグラウンドについて、大量に、そして細やかに張り巡らされた伏線の回収が、かなりスムーズに感じられたのではないかと思う。
 ここまで時系列がバラバラにアレンジされた物語進行は、前例にあまり覚えがないのだけど、もし他に知っている人がいたら教えてほしい。
 
 時系列がバラバラなのは(おそらく多くの人が指摘しているように)周回視聴を促す意味でも巧いとは思ったが、演出面でもかなりの効果をもたらしていると感じた。
 作中半ばごろ、ある凄まじい「鬱展開」が描かれるのだが、その出来事に対して彼女たちが何を見て何を思ったかは、劇中では一切語られない。通常の単線的な時系列進行でストーリーが展開するなら、ここまでの省略は少なからず違和感を生じさせるだろうが、本作は直後に時系列を遡行したこともあって、違和感をまったくと言っていいほど抱かせない。それどころか、むしろ何も描かれないことによって、一連の事件は触れてはいけない出来事であったかのように描かれる。(そして彼女たちもまた、時系列の大胆なカットによって、その出来事をタブーとして認識しているかのように振る舞うことになる。)
 筋書き自体としてはさほど珍しくもない展開だったかもしれないが、このプロット上の空白が、視聴者にかつてないほどの強烈な後味の悪さを与えているのだろうと感じた。(自分はあの回はつらくて一周しかできなかった。)
 
 終わり方は、前評判よりも駆け足で終わった印象はあまりなかった。まあ第1話の時点で物語の展開速度がかなり速めだと感じたので、それを考えるとこれぐらいの終わり方になるかなという気はする。
 
 とにもかくにも、『プリンセス・プリンシパル』は主にストーリーテリングの面でけっこう思うところがあった。最近久々にシナリオ方面の勉強をしたいと思っている。思っているけど、どうやって勉強するのがいいのかしらね。ベタにターニングポイントとかメモとっていくやつをやるのがいいのか。
 
 ちなみに推しキャラはとくに見つからなかった。(嫌いなキャラも特にいないがアンジェはどことなく好きになれない。)
 推し候補だったキャラについて言えば、視聴前に期待していた7とかいうみゆきちキャラはひたすら影が薄かったし(『賭ケグルイ』の会長を見習え)、プリンセスは作家の都合でオールラウンダーに動かされている感じが強くて肝心の本人が埋没していたように思えてならなかったし(もちろんまったく描写されていなかったと言うつもりはない)、アンジェはめんどくさいガチレズだし(7話のカバーはめっちゃ好き)、20スパイことドロシーさんは……強く生きてほしい。
 
 あとゼルダさんはそれなりに気に入ってます。少佐っぽく消えていったのはポイント高い。二期か何かではきっと素晴らしいご活躍を見せてくれることでしょう。